内部統制ブログ(フジタヒロキ)

現役の監査法人の中の人が、こっそりと心の声をささやくブログ

IR資料から会計不正を学ぼう①(卸売業、循環取引)

効果的な内部統制を構築するためには、どのような不正や誤りが発生し得るか、具体的にイメージして内部統制を構築することが必要です。自社のビジネスを一番よく知っているのは、外部の人間ではありません。内部の社員であるあなたです!会計士やコンサルタントに任せきりにしてしまってはダメです!!あなた以上に適切な内部統制を設計できる人はいません。

一方で会計士やコンサルタントが何を知っているかというと、不正や誤りの実例です。多数の実例を知ることにより、業種に応じて発生しがちな不正や誤りをよく知っているのです。
現代は情報開示が進んでいますので、不正が起これば内部統制報告書にて「開示すべき重要な不備」が明らかになりますし、第三者委員会により調査され、そのレポートも公開されます。具体的な不正事例について知る情報が揃っています!

内部統制報告書や第三者委員会の報告書を基に、不正・誤りの手段を学びましょう。

 
今回は、東証一部上場の昭光通商株式会社さんが、2017/4/25に開示した「内部統制報告書」と「特別調査委員会の報告書」を基に、循環取引の事例を学びましょう。資料は昭光通商株式会社さんのIRサイト(下記リンク)から入手しました。

IRニュース:昭光通商株式会社 2017/04/17 特別調査委員会の報告書受領に関するお知らせ


今回循環取引を行ったのは、昭光通商(株)さんの子会社の(株)ビー・インターナショナルです。

概要を1枚の図に纏めました。(省いている箇所がありますので、より詳しく知りたい方は「特別調査委員会の報告書」を読むことをお勧めします!)

ビー社さんは、レアメタルなどの素材を取り扱っている卸業者です。
図の通り、B社から珪素を仕入れてA社に販売する取引が、架空取引で実際の商品が存在しておらず、お金だけが循環する取引でした。

 

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循環取引が起きてしまった原因が3つあります。
・ビー社を通さず仕入先B社から得意先A社に商品を直送していたため、架空取引に気付くのが遅れた。
 直送取引は卸売業で通常あり得ますので、直送だからと言って必ずしも不正ではありません。しかし、不正が発生する確率が高まるため、注意が必要な取引でしょう。
・仕入先と得意先の経営者が同一であった。
 循環取引を行うためには、仕入先B社と得意先A社の協力が必須です。通常であれば、2つの異なる会社に不正の協力を持ち掛けても、協力が得られる確率は低いと思われます。今回の場合は、一人の経営者の支配下にある2社を使っていますので、不正の協力が得やすく、また関与者が少ないので不正が露見しにくいともいえるでしょう。

・社長の取引を役員がチェックしていなかった。
 上記と同じく、関与者が社長のみで、社内に関与者がいなかったため、不正が露見しにくい状況にありました。